カモメ団プレゼンツ
『ブラスカ様御一行スフィア』 ホワイトデー 撮影者:アーロン→ブラスカ→ジェクト



薄暗い場面。
古びた壁が目につく。
雨宿り中なのか、つまらなそうに外を眺めるジェクトの背中越しに降り続く雨が線のように映っている。
地面を覆う水溜まりに雨がしとしとと落ちる音がBGMのように聞こえてくる。
画面の手前、ジェクトの少し後ろに腰を下ろすブラスカ。
「ジェクト、もうすぐあの日だね」
「あの日ィ?あの日ってどの日だよ」
怪訝な顔で振り返るジェクトとは対象的にちらりと見えるブラスカの表情は楽しげだ。
「ほら、バレンタインの日に話してくれただろう。ええと…ブラックデー、だったかな?」
「…ホワイトデーか?」
呆れた顔をされても動じない。
「そうそう、ホワイトだった。楽しみだな、普通お返しといったら3倍返しだろうしね」
雨音は更に音量を増し、時折雷鳴が混じるようになっている。
「3倍!?…確かにおめえを殴ったら3倍返しどころじゃ済まねえだろーけどよ…」
「何を貰えるんだい?」
子供のように無邪気な声音。
ジェクトは溜息を一つ吐いて腰に手を当てる。
「あのな、そういうもんは何を貰えるかじゃなくて気持ちの問題だろ」
「ジェクトの気持ちなんかいらないよ、貰ってもしょうがないじゃないか」
稲妻の閃光に一瞬照らし出されるブラスカの顔はあくまでも無垢な笑顔だ。
ジェクトは爆発音に似た轟音の中立ち尽くす。
「…………」
呆然としたジェクトが画面に訴えるような視線を向ける。
親指でブラスカを指しながら何かを言っているが、雨音に掻き消える程小さな声で聞こえない。
が、唇の動きで僅かに読み取れる。

『オイ、コイツ本当に召喚士か?』

ブツッ。
画像が途切れる。

ヴィーン……
再びスイッチの入るような音がして映像が写し出された。
場面は旅行公司の厨房。
物陰から撮っている様子で視野が狭い。
焜炉に向かう大きな後ろ姿。
「ジェクトスペシャル3倍返し完成だ!」
振り返ったジェクトは山盛りのピーマンとニンジンの炒めものを皿に移した。
悪戯好きな子供のように満足気な表情。
そこへアーロンが現れる。
腕組みしたまま壁に背を預け、顎を上げて喋る姿は攻撃的だ。
「あんた、言ってたよな」
「ああ?」
「お返しは『気持ちの問題だ』って」

若干怒気を孕む口ぶり。
しかし眼差しは淋しげにも見える。
「あんたの気持ちっていうのは、わざと俺が嫌いな物を寄越すような気持ちだってことか?」
「いや…ホラ、あれだ、ニンジン食うと美人になれ…」
「もういい」
頭を掻きながら言い訳を探す相手の言葉を遮り、アーロンが画面から姿を消す。
「…ったく」
残されたジェクトは皿のニンジンを一欠けら口に放り込む。
「あんな事言って、今夜嫌ってほど返してやるから後悔すんなよ」
アーロンの去った方を見てニヤリと口の端を上げるジェクト。


ブツッ。


そこで映像が切れた。

ヴィーン……
場面が再び変わった。
水溜まりの残る道をブラスカとアーロンが歩いている。
撮影者も歩いているらしく、映像が上下にぶれる。
「アーロンは昨日ジェクトにお返しを貰ったようだね」
「!?…いや、あの…俺は別に何も…」
突然のブラスカの言葉に目を丸くし、しどろもどろなアーロン。
映しているジェクトの堪え笑いが小さく聞こえる。
「ジェクトの気持ちなんかでいいなんて、アーロンは欲がないなあ。まあ、気持ちだけじゃなくてからd…」
「ブラスカ様ッ!!」
必死の形相なアーロンにブラスカはアハハ、と楽しそうに笑う。


からかわれたと気付いてむくれるアーロンの肩をぽんぽんと叩くと、ブラスカはスフィアに顔を向ける。
「ジェクト、私はまだお返し貰ってないよ」
「うっ…」
ジェクトが立ち止まったようで、上下していた映像が止まった。
ブラスカも立ち止まり返答を待つ構えを見せる。
うぅ…と低く唸る声以外は静止する映像。
「わかったわかった!…そんじゃよ、おめえの言う事何でも一つだけ聞いてやるってのはどーだ」
「一つだけ?ケチだな君も」
不満顔を見せるブラスカにジェクトの突っ込みが飛ぶ。
「ピーマンのくせに文句言うんじゃねえよ!!」

「やれやれ…しょうがない、それで手を打つとするか」
本当に『しょうがない』という表情で肩を竦めてからブラスカは歩き出した。
「何にしようかな〜、フフフ」
その横でアーロンが楽しそうに歩いていくブラスカを目で追っている。
それからスフィアの方へ悲しげな瞳を向け、手を合わせて祈るように軽く頭を下げる。
「おいアーロン!何合掌してんだよ!!」
気の毒そうな視線を残しブラスカの後を歩き出すアーロン。
画面から二人が消えると荒涼とした大地だけが映し出され、ジェクトの呟く声が入る。

「早まっちまったかな…」



【終了】






『言い訳』

ブラスカ様は「ご利用は計画的に」するタイプなので究 極召喚への布石完了です(爆)
軽はずみな行動は命取りですよ、アハハ。by某大召喚 士様(笑)

ホワイトデーもとっくに過ぎたってのに今更アプ。
今までのスフィアネタは撮影者の一人称で書いてました が、VDから客観的映像として書いてみるテスト風、そして見事に失敗する罠凹
ネタが浮かんでメモった時点では台詞オンリーで、後か ら間を埋めたのに無駄な労力だった…?
ネタ的ネタはテンポと勢いが勝負なんだと思い知りまし た。
なもんで、次回からはまた元に戻すかも。
次回があれば、のハナシです(笑)