Never Leave You(JB)










応える事で覚悟が揺らいでしまうかもしれないと自分を 戒め、いつで も平静を装って。
そうした紙一重の均衡を壊したのはジェクトだった。
ベッドに押し付けられた体。

「君はムードってものを知らないのかい?」
笑う言葉とは裏腹にこちらにも余裕はない。
抗う事すら忘れて喜びにうち震える。
気付けば自らもその逞しい背中に手を回し引き寄せる程に、
知らず知らず押さえ込んでいた感情は溢れて。

それまでの抑制が嘘のようがまるで嘘のようだった。
自然と想いが口をつくようになるまでには時間はかからなかった。

素直に求め合える関係。


「好きだ」と口にすれば同じ言葉が返る関係。


留まらぬ熱い感情とは裏腹に居心地の良い関係。
今だけ、別れの時までだとわかっていてもジェクトを求める事のできる幸せ。
つかの間であっても構わない。

儚くとも今この瞬間の幸せの中に生きられれば。
思い残すことは何もない。








それは私の勝手な思い上がりだったのかもしれない。











「何言ってやがんだ?」



引き攣るような笑顔が首を振る私を捉らえて凍りつく。

強く握り過ぎて色をなくした拳をじっと見つめ、静かに顔を上げる。



「おめえはオレの事を好きだって言ったよな」



言葉を発した唇の端が細かく震えている。
ぎらつく強い眼差しに思わず目を逸らしたくなっても、逃げられない。
こんなジェクトを見るのは初めてだった。
向き合う事でしか誠意を伝える術はない。


「人をこれだけハマらせといてソレか?はっ、どうなってんだおめえの頭は」


冷たく嘲笑うように笑ってみせても、その瞳は笑ってなどいない。
怒りや悲しみを交えた混乱がそこに映っている。




「黙ってねえで何とか言えよ、納得しろってのか?冗談じゃねえ、今までの時間はオアソビだってのか!」





語気を荒げ、今宵飲もうと持ち込んだ酒瓶を掴むと、苛立ちを全てぶつけるかの如く床に叩き付けた。
二人のいる空間を切り裂くように硝子の砕け散る音が響き渡る。
場にそぐわぬ芳醇な香りを放って飛び散る液体。


言い訳の言葉もなく、口をきつく結んだ。
言い訳など、出来るはずがない。



何も知らずに「この旅が終わっても離してやらねえ」と言うジェクトにただ笑みを返してきた。



好きだからこそ、と今口にすることに何の意味があるだろう。








「一体どうしたんだ!?」
駆け付けた室内を見て驚愕するアーロン。
ただならぬ空気を感じたのか、問い詰める事もせずに私達の顔を交互に見遣る。
アーロンの登場に目を伏せてしまった私はジェクトの足元を見つめる事しか出来ず。
足がこちらへと踏み出されたのをきっかけに目を上げると、ジェクトは私を睨むように一瞥して部屋を出て行った。



「ジェクト!」



アーロンの声がその背中を追い掛けても振り向くこともせず、薄暗い廊下に姿は消える。
私には追い掛ける事も出来ない。
心配そうに向けられるアーロンの目。








「ジェクトに、話したんだ」







こんな時でさえ私は微笑みを浮かべている。














もう戻らないかもしれない。
そう思ったがジェクトは戻ってきた。


「それがおめえの一番の望みだっていうなら最後まで付き合ってやるよ」





投げやりではなく、かといって納得したようでもない、無表情な声だった。
感情は押し殺されて深く決意をしたような。


「ただし、だ」
うって変わったように意志のある強い口調。

けれど暖かく手を差し延べるように。
けれど鋭く突き刺すように。





「少しでも迷いを見せてみろ、力ずくでも召喚士なんて止めさせてやる」









ジェクト自身がそれを口に出す事で全てを振り切ろうとしているように見えた。
そんな事があるはずがないと、彼はわかっている。









これは彼が口にする最後の本音だろう。
その言葉は責められた時よりも私を貫いて、胸は強く痛んだ。











「帰りましょう!」とアーロンが言った。
「祈り子にはオレがなる」とジェクトが言った。
引き止めるアーロンとそれに対するジェクトのやり取りが、
まるで今までの道中に聞いてきた口喧嘩のように聞こえる。



私はジェクトの手を取った。
それが正しい選択なのかはわからなかった。
幾重にも痛みを押し付けているんじゃないか。
脳裏に浮かんだ考えを見透かしたように、ジェクトは私の目を見て笑った。


『オレ以外に誰がいるんだ?
これでおめえも満足だろ』


ジェクトがそう言ったような気がして。









全て私の思い上がりだったのかもしれない。
そう思ってみても私には君しかいない。


全て私の身勝手な想いだとしても。
君が最後の最後まで私の側にいてくれる。
まっすぐに私だけを捉らえる目。
最期の時を迎える私に恐れはない。
君が側にいるから




霞む視界
笑うように歪んだ君の顔が消えて
だけどわかるんだ
消えゆく意識と反比例するように君との繋がりを強く
この身体より流れゆく生命の雫を君が受け止めてくれることを









【END】

















『言い訳』

初めての本格ジェクブラです。
昨年、自分自身が相当追い込まれてネト落ちしていた頃に身を切る思 いで書いたもので(大袈裟)
まあ、内容は自分と全く関係ないんですけど(笑)

別れるとわかっていて誰かを求めるという行為に罪悪感を伴うことで しょう。
ジェクトの立場としては怒るのも当たり前で。
本当は力づくでも止めることは出来るだろうに、そしてそれが自分の 望みでもあるはずだろうに、相手の道を一緒に歩むことを選んだジェクト。
そこまで愛されればブラスカ様も幸せだったろうなぁ。
ホントは「あんなに好きって言ったじゃねえか」な話で書き始めたん ですけど(笑)