その男不在につき(J+A)
「ブラスカ様の所へ届け物をしてくる。2〜3日で帰る」
飾り気のない几帳面な字で書かれたそのメモは、テーブルの上にあった。
ブラスカは数週間前から地方へ修行に出ている。
『世の中が平和になっても修行を続けられるとはさすがはブラスカ様だ』
とアーロンは言うが、オレは修行ってのはただ単に遊びまわる口実なんじゃねえかと睨
んでる。
とにかく、アーロンは暫く帰ってこないらしい。
「うぅぁぁあ〜…!」
欠伸をしながら大きく伸びをする。
ブラスカの野郎が旅に出ちまってからアーロンの小言がパワーアップしてる気
がしてならねえ。
口を開けばやれあれが何だ、やれこれが何だってうるせえのなんの。
何だアイツは、小姑か?ってな話でよ。
鬼の居ぬ間になんとやら、ってヤツだ。
思わず口元が綻ぶ。
時計の針は13時を指していた。まだ完全に眠気は飛んでない。
シャワーでも浴びてスッキリするか。
洗面所で着ていた衣服をポイっと脱ぎ捨てる。
『何度言ったらわかるんだ、脱いだ物は籠に入れろ!』
そんな煩い言葉も暫くは聞かないで済むわけだ。
風呂場に入って蛇口をひねり、少し熱めの湯を浴びる。
頭と体を洗ってるうちにすっかり目が覚め、鼻歌交じりで風呂場を出た。
軽く身体を拭いて腰にタオルを巻いてキッチンへ向かう。
『そんな格好でうろつくな!髪を乾かせ、床が濡れる!』
今日は腰タオルもいらなかったんじゃねえか?などと思いながら冷蔵庫の扉を
開く。
ミネラルウォーター、スポーツドリンク、お茶、牛乳、野菜ジュース、ビー
ル…。
『開けっ放しにするな!すぐ閉めろ!』
うーん、何すっかな。昼間っからビールってのも悪くはねえ。
アーロンがいたら『明るいうちから酒なんて』って嫌味の一つも言われるんだ
ろーが、今日はそのアーロンもいねえし。
冷蔵庫を開けたまま腕組みして暫く考えて、よしっとビールの缶を取り出し
た。
「かぁ〜っ、うめえ。やっぱ風呂上りにはたまんねーな」
口元の飲み零しを手の甲で拭い一人ごちる。そのまま腰に手を当てグイっと飲
み干すと、空になった缶を片手で潰して流しに転がした。
『ちゃんと片付けろ』
知ーらねっと。
部屋に戻って衣服を身につけると、ドカドカと階段を下り洗面所に向かってタ
オルを放り投げる。
「さてと。今日は何すっかな」
外に飲みに行くのもいいかもしれねえ。遅いぞ!!』なんて怒られることもね
えし、オネーチャン達のいる飲み屋に行くのも悪くねえ。
財布の中を確認する。ちっ、そういや金下ろしてねえや。めんどくせえし今日
はこのまま家にいるとするか。
「つまみつまみ…っと」
台所をガサゴソと物色するが何も見当たらない。
小腹も減ったし何か作るか、と冷蔵庫の中からめぼしいものを取り出して料理
を始める。
いつも料理はアーロン任せだが、別に料理が出来ないわけじゃねえ。凝ったも
のは作れねえが…上出来だな。
出来具合に満足してフライパンから皿にうつすと、使った器具を流しにそのま
ま突っ込む。
『やるのはいいが、後始末もしろ』
皿を片手にビールを取り出し、リビングのソファに腰を下ろす。
そういや、今日はブリッツの中継があったはずだ。
リモコンでモニターのスイッチを入れるとちょうど試合が始まったところだっ
た。
「そうじゃねえ!!何でそこでシュートしねえんだよ!!」
試合を見ているとどうしても血が騒ぐ。
オレだったらそこでああする、こういう時はこう切り返す。駄目だ駄目だ、そ
うじゃねえだろうよ。
若い選手のプレイに苛立ちに似た歯がゆさを感じてしまう。
「だからちげーよ!!!」
興奮して振り上げた腕が缶に当ってビールが零れた。
「あ〜あ〜、ったく…」
あまり中身が入ってなかったようで、大して零れはしなかった。さほど慌てる
こともなく適当にティッシュで拭く。
キョロキョロとゴミ箱を探すと部屋の隅に寄せられていた。
「ジェクト選手、一球目投げた〜ッ!!」
自ら実況しながら振りかぶって投げると、丸めたティッシュはゴミ箱の淵で跳
ね返って床に落ちた。
「ハズレたか」
『拾ってゴミ箱に捨てろ!!』
「あ〜、なんか燃えてきたぜ!」
酒を飲んでいるせいもあり、力が入り過ぎて暑くなってきた。着ていた上着を
脱いで床に叩きつける。
「そこだ!!そこ!!オラ、行け!!」
試合は延長戦にもつれ込んだ。その間絶え間なく飲み続け、
「オレを出しやがれ!!」と白熱してたせいでいい具合に酔いが回ってきた。
『寝るなら自分の布団で寝てくれ』
部屋に戻るのもダルイ。どーせ明日もアーロンはいねえんだし………
頭がズキズキしやがる。
目を開けるのも億劫だ。
どうやら昨日はそのままソファに横になって寝ちまったらしい。
手で頭を支えながら体を起こす。
「水飲みてえ…」
声が枯れてるのは酒焼けなのか、騒いだせいか。
テーブルの上や床、そこらじゅうに空き缶が転がって酒臭い。
ゴミ箱の周りには何故かティッシュが散乱している。
水を取りに台所へ行くと、流しには汚れた食器類。
そういや…アーロンはいねえんだったな。
『ほら、水でも飲め。まったくあんたって奴は…世話が焼ける』
怒った顔で、でも心なしか嬉しそうな顔で水を持ってくるアーロンの顔が浮か
んだ。
水を口に流し込んで頭をバリバリと掻く。
チッ。
めんどくせえな。
マジでめんどくせえ。
…分かった分かった、しょうがねえから片付けといてやるよ。
だから早く帰ってきやがれ。
っつーか、結局自分で片付けるんじゃ、初めから散らかさなきゃ良かったん
じゃねえか?失敗したなオイ……
散らかった部屋を恨めしそうに見渡して、溜め息をつきながら蛇口に手をかけ
た。
【END】
まったくもってノリだけで
出来たSSです(笑)
何が書きたかったわけでも
なく「あーそういうのもあるかー」と浮かんだものをそのまま書いただけなので、勢いしかありません(笑/っていいのか)
というかですね、これはパ
ラレルになるんでしょーか?
よくよく考えたら私パラレ
ルと呼ぶべきかビミョーなものばっか書いてるような気がしないでもないんですけど(汗)
パラレルではないにしても
ゲーム設定とは明らかに違うもんなあ。
どーなんでしょ。
サクっとライトなノリで読
み流していただければ幸いです(笑