I waiting for you
I waiting for you(ジェク渋祭投稿作品)
「ここは…」
目の前に見た事があるような景色が広がっている。
まだ自分がスピラの世界にいるような錯覚に陥りかけ る。
「異界、だろーな」
声の方へと振り返ると、ジェクトが腕を組んで立ってい た。
そう、全ては終わったのだ。
10年もの長い年月を死してなお生き続けた理由が目の 前に在る。
どんな言葉も蓄積された想いを代弁することなど出来な い気がして、ただ相手の姿を見つめる。
「待たせたな、ジェクト…」
やっとの思いでそれだけ口にすると、ジェクトは大きく 頷いてみせた。
「ヒヤヒヤしたぜ、他の召喚士が先に来て新しいシンに なっちまったらってよ」
シンは何度でも蘇る。
新しい召喚士とガードの手によって。
ジェクト自身がそれを打ち破る方法を知り得たはずがな い。
それでもきっと、自分が最後のシンになる覚悟で祈り子 になる道を選んだのだと思う。
「けど、おめえらを信じて待つ事ぐれえしかオレに出来 る事はなかったからな」
あの日の事が昨日の事のように思い起こされる。
自分自身が口にした『無限の可能性』、それをジェクト が信じて待っているのだと自らを奮い立たせた日々。
シンが現れる度に、待っていろと心の中で呼び掛けてい た。
「あんたには俺達が見えていたのか?」
ふと疑問に思った事を問うと、ジェクトはアーロンの胸 を指でとん、と指した。
「この服、よく目立つからな。何処にいたっておめえが いればすぐ見つけられる」
「人を目印がわりみたいに言うな」
ニヤリと笑うジェクトの指を押し返しながらも、アーロ ンも口元を歪める。
ずっとこの日を待っていた。
他愛もない話で笑い合った旅路を思い起こして。
「あんたがザナルカンドに来た時、やっとあんたへの道 を歩き出せると思った。どれだけその日を待っていたことか」
ザナルカンドで過ごす間、街の至る所でジェクトの面影 に触れた。
時が過ぎるのをじっと待つ中でそれらを目にするのは逆 に辛い事だった。
ジェクトがシンになってザナルカンドを襲ったあの日、 気付かぬうちに笑っている自分がいた。
やっと会えた、やっと俺達の新しい物語が始まる、と。
「この10年、俺が何の為に歩いてきたと思う?…あん たに会う為だ」
じっと目を見て聞いていたジェクトが言葉の代わりに にっと笑う。
どうしても伝えたかった言葉なのに、その顔を見たら言 葉などどうでもいい気がしてきてアーロンも笑みを零す。
「10年か。それにしても老けたんじゃねえか?」
ジェクトは無遠慮にアーロンに顔を近付け眺め回す。
「…あんたは変わってないな」
ついさっきまで真剣に闘ってきたとは思えないその姿に 呆れ、横を向いて溜息をつく。
その隙にジェクトは素早くアーロンのサングラスを取っ た。
「おい…返…」
取り返そうと右手を伸ばし、ジェクトの柔和な視線にぶ つかり動きを止める。
「おめえの歩いてきた10年が見える気がする。嫌い じゃねえよ、そのツラも」
ジェクトは10年前と同じように笑うと、伸びた右手を 掴んでアーロンの体を引き寄せた。
「…待たせちまったな、アーロン」
【END】
『言い訳』
ジェク渋祭りに投稿させていただいた一品です。
せっかくの祭にがっつりJAにならなかったのは残念ではありますが(笑)、私は友情と恋愛紙一重のJAも大好物です。
10年前、別れ際にジェクトが「嫌いじゃなかった」の台詞後アーロンに抱擁したと信じて疑わない私は、再会の時をこんな風に想像(妄想笑)してみたんです が。それにしてもアーロンが素直過ぎるかな?という気も無きにしもあらず。そこは、再会の興奮覚めやらずといった所で(笑)
10年前の二人の関係が「あーもうもどかしいっ!」という状態であるのが前提ですな。こんな調子だとこれからもなかなか前進はしないんでしょうが、それも また好物です(笑)