愛してる






愛してた…


何を?
アイシテタ?


熱気に包まれたスタジアム。
押し寄せた群衆が興奮して立ち上がり、何かを叫ぶ。
ジェクト、ジェクト、ジェクト……
聞き覚えのある名前。

球体を持った両腕を高々と掲げた男。
挑発するかのように笑ったその顔が大きく映し出されると、歓声は一際大きくなる。

キングオブブリッツ。
懐かしい響き。


愛してた。
その小さな球体を。
アイシテタ?


寄り添ったか細い肩。
隣で嬉しそうに話を聞く姿。
ねぇ、ジェクト…。
甘味を帯びた声がその名前を口にする。


少し離れた後ろで怒りを顕にした青い瞳。
男の背中を睨み続ける。

何故泣いている?
小さな手を必死に伸ばして。

男はちらりと後ろを振り返る。
一瞬少年を捉えて細めた目は、すぐに前へ戻された。


アイシテタ?

そう、愛してた。
小さな二人の存在を。

アイシテタ?


柔らかな微笑み。
その奥に誰よりも強い決意が読み取れる。
ジェクト、ありがとう…。
穏やかな声がその名を呟く。
男は笑って頷き返す。


流れるような太刀捌き。
その度に揺れる艶やかな黒髪。
ジェクト…ジェクト…!
その名前を奏でる声音は時に荒々しく、時に暖かく。


アイシテタ?

そう、愛してた。
その逞しい二人の魂を。

ジェクト。
そうだ、それがオレの名前だった。



オレが愛してたものたち。

愛してた?
違う、今でも愛してる。
愛してる……


記憶は既におぼろげで、ジェクトでいられる時間は日増しに少なくなっていく。

あと少し。
あと少しだけ愛するものの記憶を留めて。


愛してる。


愛してた…



……アイシテタ?
ナニヲ?


















【END】









『言い訳』


いつものことながら突然沸き上がったネタ。書こうと思っていたネタは他にあるのに、忘れないうちにとアップしました。
記憶をなくしていくジェクト。ハイ、シンになってからのジェクトです。
愛しいものを愛しいと感じた記憶が消えていく…怖いことですね。忘れん坊の私ですが、感情を忘れた時は愕然とします。
ジェクトの場合は失ってない感情なのに意志に反して消えていく。
一人でそれと闘っていたのだと思うと、ひどく悲しくなるのは私だけでしょうかね?