Don’t Regret





「え〜っ、リュックって彼氏いたんスか!?」

驚いたティーダの口をリュックが慌てて押さえる。

「もう昔のことだってばぁ!!」
「そんなこと言って、真っ赤っスよ?まだ好きなんじゃないのか?」
「そんなことないもんっ」
必死に否定する姿は明らかに動揺している。
「あ、アーロン」
遠巻きに見ていたアーロンが歩み寄り、リュックを見据える。





「アーロン、君はそれでいいのかい?」


夜中にブラスカが部屋を尋ねて来るのは珍しいことだった。

「何のことでしょうか」

開口一番に言われた言葉が何を差しているのかわからなかった。

「気付いているんだろう?ジェクトの気持ちに」

その名前に心臓がドクンと跳ねた。

「ジェクトが、何か?」

声が震えた。
そのまま押し黙るアーロンの目をしっかりと捉えるブラスカは。

「ジェクトの気持ちをどう受け止めるかは君の自由だけど」

穏やかながらもはっきりとした口調で続ける。

「後悔だけはしないようにするんだよ」
「後悔なんて…」

笑って打ち消そうとしたが、ブラスカの真剣な眼差しにぶつかって笑うことが出来なかった。

「夜中に悪かったね。おやすみ」
「いえ…おやすみなさい…」

ブラスカが部屋を出ていってからも、アーロンはなかなか寝付けなかった。
ジェクトの気持ちに気付かないわけではない。
自分はジェクトを好きなのだと思う。
ただ、どうしていいのかわからないのだ。
面と向かって好きだと言われたわけでもない。
自ら求めるなんて真似が自分に出来る筈がない。


「どう反応しろというんだ…」

もやもやした気持ちを無理矢理押さえ込んで、眠ることに意識を集中させた。



その日はすぐにやってきた。

「ブラスカ様!ジェクト!!」

取り乱したアーロンとは対照的に覚悟を決めたジェクトの表情は穏やかで。
二人の仲は何も発展しないままだというのに、ジェクトは自分を置いて行ってしまう。

『後悔だけはしないように』

今更ながらブラスカの言葉が胸を打って、愚かな自分に目眩がした。

今更想いを伝えることなんて、出来るわけがない。

ジェクトの後ろにブラスカが悲しげな瞳で立っている。
『アーロン、すまない』
ブラスカの唇がそう呟いたように見えた。




「おっちゃん…聞いてた…?」
恐る恐る聞くリュックの頭にアーロンはポンと手を置いて。

「…後悔だけはするな」



アーロンらしからぬ行動に、二人はその場を去っていく背中をただ呆然と見つめていた。
その言葉の重みも知らずに。













【END】









『言い訳』


後悔先に立たず、と言いますが…誰も後悔したいと思って行動を決めたりはしないわけで。
時が来て初めて後悔するわけで。
自分の気持ちに正直に、その時出来ることを全力でやったからといって絶対後悔しないとは限らない。
『後悔するよ』って人に言われても、その時にはわからないんだよね。
出来ればしたくないことだけど、こればっかりは…わかりません。