TRINITY
side A
何が変わったのかうまく説明は出来ない。
ブラスカ様は変わりなく穏やかに笑い、労を労ってくれる。
でも分かるのだ。
確実にブラスカ様に変化があったことを。
捨てられたとメソメソ泣く女のようにはなりたくない。
しかし、どうしてと思う気持ちは抑えられず、縋るような目で姿を追ってしまう。
「アーロンお疲れさま。」
愛されていたという自負を錯覚にはしたくないのに、ブラスカ様は微笑むだけで全てを流していく。
ジェクトは俺を好きだと言う。
いつもふざけた調子のジェクトがその言葉を発する時だけ真剣な眼差しを向けてくる。
そんな俺たちを見てもブラスカ様は何も言わない。
「ブラスカ様が好きです」
ジェクトのようにぶつかっていけたらどんなにいいだろう。
負担になるのが怖くてそれが出来ない私は、自分の心情をジェクトのそれに重ねて泣きたくなる。
いっそのことジェクトを好きになれたらいいのに。
そう思う私の心をブラスカ様はどう思うのだろうか。
side J
最初は頭の堅い小煩いガキだと思っていた。
いつのまにか真っすぐにしか進めないその姿に心を奪われ、気付けば好きになっていた。
アーロンとブラスカ。
二人の仲に気付かない程俺は鈍感じゃねぇ。
「回りくどいことは嫌いなんだ」
宣戦布告するつもりでアーロンへの想いをブラスカに告げた。
「わかりました」
何が分かったのか分からず顔をしかめると、ブラスカは微笑んで言った。
「アーロンをお願いします」
二人の間に何があったかなんて知ったこっちゃねぇ。
確実に分かっているのは俺がアーロンを好きだってことだ。
「俺を見ろって」
アーロンの視線の先にはまだブラスカがいる。
一直線のあいつがそう簡単に俺になびくはずがねぇ。
それでも俺は言い続ける。
「俺を信じろ。ついてこい」
苦しい想いなんか捨てちまえ。
お前が俺のものになれば皆楽になれる。
そうなんだろ?ブラスカ。
俺がお前等を守ってやるよ。
side B
確かに私は彼に恋をしていた。
たとえ召喚士としての消えゆく命を嘆いた状況故のものであったとしても、その事実は変わらない。
ガードを志願してきた彼とそのような仲になるには時間がかからなかった。
いつでも真っすぐに私を見つめるその瞳が心から愛しかった。
「ブラスカ様…」
唇を重ねた後に吐息と共に名を呼ぶ声も、潤んだ眼差しも、指どおりの良い艶やかな黒髪も。
頑強な体に似合わない包み込んだ時の繊細さは、守らねばならない存在のように感じられた。
「俺はアーロンが好きだ。」
ジェクトから受けた告白に驚きはなかった。
私はアーロンを手放すことを決意した。
覚悟を決めた時のように。
この旅は言うなれば死ぬ為の旅。
遅かれ早かれ別れが来ることは分かっている。
ならば、死にゆく私よりも、生き抜ける者にアーロンを託そうと思った。
時折見せる哀しげな瞳に気付かない振りをして微笑んでみせる。
彼を傷つけることになろうとも、私はもう、召喚士としての道だけを歩むと決めたのだから。
【END】
『言い訳』
二日前に浮かんだ話を書くのはやはり無理なことでした(苦笑)
勿体ない!の根性で書き上げたものの、何が書きたいという芯がぶれた為、独り善がりな話となってしまいました;
ブラスカは召喚士としての自分を貫く為なら何でも捨てる気がする。
それは決して自分勝手なわけではなくて、常に召喚士たる自分を意識しているということで。
同時に、アーロンの幸せを願った上での決断なのだと書きたかった……。