たとえ雨が降ろうとも
激しく抱き合った後の静寂が嫌いだ。
余韻の残る熱気と裏腹に、部屋に響く雨音が静寂を浮き彫りにする。
体を重ねる度に感謝する。
お互いの熱を感じ取れる個々であることを。
体が離れる度に思い知らされる。
俺たちは決して一つにはなれないことを。
どんなに求め合っても結局は一つ一つの個であると。
だから、静寂は嫌いだ。
「雨は止まないようだな」
同意を求めるでもなく、独り言のように呟く。
脱力した体をシーツに埋めている横の男が聞いているとは思えない。
それでも悪あがきをするように続ける。
「明日は七夕だというのにな…」
「……なんだぁ?そのタナバタってぇのは」
「あんた、七夕も知らないのか?」
反応が返ったことにも驚いたが、七夕を知らないという事実の方が驚いた。
「…本当に何も知らないんだな」
「ワリィかよ」
ムスっとしてこちらを見るジェクトはまるで子供のようで、思わず笑ってしまう。
「…七夕というのはな……」
スピラに伝わる古い言い伝えを、ジェクトはおとなしく聞いていたが、話が終わると顔をしかめて口を開いた。
「んじゃ明日晴れねーとソイツラは逢えねぇってのか?」
「ああ。しかしこの雨ではな…」
ジェクトはさも嫌そうな顔をして首を振る。
「けっ。その彦星って奴は根性ねぇ野郎だなぁ、ったくよ」
言葉の真意が読み取れずに首を傾げて見せると、フンっと鼻で笑われた。
「待ってんだろ?大事な奴がよ。だったら泳いででも行けっつーんだよ」
意外というべきか、らしいというべきか。
「俺だったら、雨が降ろうが、激流だろうが関係ねぇ。泳ぎきってやる」
その言葉に胸を掴まれる。
あんたは、そうしてまで俺に逢いに来てくれるか?
俺の為でも泳いでくれるか?
その問い掛けを口に出せずにただ乱れた髪を見つめていた。
こんなに好きにさせたのはあんただ。
でもあんたが同じように俺を見てくれている自信がなくて、俺はいつも言葉を呑み込む。
「おめぇはじっと待ってそうなタイプだよな」
「…そうかもしれん」
頷き苦笑するとジェクトの腕が伸びてきて、ぐいと引き寄せられた。
「…ま、おめぇは待ってりゃいい。俺が泳いでってやっからよ」
「え……?」
欲しかった言葉だった筈なのに、まだ汗の引かないジェクトの胸の中で俺は聞き返していた。
「……本当か?」
顔を上げてじっと目を見つめると、幼子をあやすように頭を撫でられる。
「ったりめぇだろ?おめぇが何処にいても、海を越えてでも逢いに行ってやる」
乱暴な言葉尻とは裏腹に、髪を撫でる手は優しく動く。
見つめ返すその瞳の色が、言葉を発したその唇が、泣きたい位に愛おしくて。
しっかりと抱き締められた体を離したくなくて、首に腕を回してそっと口付けた。
「俺はずっと待ってていいんだな……?」
ジェクトの唇は答えを発する前に俺の唇を塞いでいた。
ジェクト。
今、何処を泳いでいるんだ?
明日の七夕も生憎雨らしいが…あんたは海を渡って来てくれるんだろう?
俺はずっとここで待ってるんだ。
あんたが逢いに来るのを――
【END】
『言い訳』
ハイ、七夕です。
去年はアロティ書いたので、今年はジェクアロ。
意識したわけではないけどどちらもアーロン視点になってます。
私、七夕って好きなんですよね〜。
理由は2つあるんですが(何)
てなわけで、七夕に合わせて勢いのみでアップしてみました〜♪(確か去年も勢いでぶっつけ…成長なしだ;)