He knows
side W
彼は知っていた。
青空の下太陽の光を一身に受けまばゆいばかりに輝く少年。
透き通った水中を自在に動く様はまるでお伽話にある人魚のようだ。
飛沫をあげ陸に上がると、金色の髪は日に灼けた肌に滴を垂らした。
流れ落ちるそれを気にも留めずに彼に大きく手を振り笑いかけてくる。
この瞬間、彼はいつも軽い目眩を覚える。
明るすぎる光のせいか、強すぎる日差しのせいか。
何度も、何度でも。
少年は手招きすると弧を描いて再び水中に消える。
はかない錯覚に捉われた彼もまた、水中へと身を沈める。
ひんやりとした透明の世界の中、少年の体温を追う。
少年の身体に刻まれた所有印が数えられる程近づいて、思い出す。
自分は知っているのだ、と。
目の前で笑う少年は彼のものではない。
手を伸ばして体に触れても、少年を捕まえることは出来ない。
少年の合図を受け、上昇する。
そのしなやかな動きに目を奪われたまま水面へ向かう。
その瞬間は、世界に二人。
そんな妄想を易々と打ち破るように世界は変わり、口が息を吸う。
水面から顔を出した少年は、生まれたての太陽のようにまた笑った。
「何ぼ〜っとしてるんスか?」
その言葉で我に返った彼は、見惚れてたんだよ、と小さく呟く。
「何〜っ?聞こえないっスよ〜!」
彼は知っている。
少年は仲間なのだ。
そして、少年には帰る胸があることも、彼は知っている。
理性などというものが恨めしく思える程に、よく分かっているのだ。
「何でもねーよっ」
彼は、いつもの彼に戻る。
少年の視線がずれ、その先に男が一人立っていた。
太陽の赤を纏った男。
彼は知っている。
愛しい者の幸せが自分の幸せであることを。
彼は、愛を知り始めた。
⇒NEXT
SIDE…
SIDE A
彼は知っていた。
誰の頭上にも平等に輝く太陽。
その光は明るく、その熱は暖かい。
神として崇め祭られていたそれらに、魅かれない筈がない。
人は皆その恩恵を受けて生きているのだ。
水面に映る太陽が飛沫と共に揺れる。
太陽のような少年。
傍にいる者を照らす少年。
照らされた者は、同時に熱に浮かされる。
いつの間にか。
少年が笑う度に、彼の胸には痛みが走る。
青空の下、少年と共にいる男は、彼と同じ目をしている。
彼と同じ目で少年を見ている。
少年の笑顔は、男にも平等に輝くように見えた。
彼は知っている。
男が少年に魅かれるのは無理もない。
もしも少年が男に魅かれたとしても不思議はない。
誰にもそれを止めることは出来ない。
止められる権利もない。
彼は水面から顔を出した少年を迎えに行く。
男が彼を見る目は穏やかだった。
少年は彼を見て、一際明るく輝いたように見えた。
少年を奪ったような錯覚に捉われ、彼は男から目を反らす。
彼は思い出す。
例え太陽が平等に輝くとしても、少年を譲る気はない自分を。
今、少年は自分だけのものであると。
彼は思う。
今日も少年の体に所有印をつけるであろう自分を。
想い想われていても不安を感じている自分を。
少年が顔を覗き込んでくる。
「どうかしたんスか?」
彼は知っていた。
自分は少年なしでは生きられないことを。
何があろうと手放すことは出来ない。
理性などというものが役立たない程に。
「何でもない」
そう鼻で笑って、彼はいつもの彼に戻る。
男は相変わらず穏やかな目で二人を見ていた。
彼は知っている。
愛すべき者に愛されていることを。
彼は愛を知っている。
【END】
『言い訳』
また訳の分からない愛話が出ました(滅)
ええっと…プチ失踪の意味あるんだろーか(滝汗)
リク内容はアロティ+ワッカorキマリだったんですが、キマリは無理でした…ハイ…。
しかもからんでなくてすみません…。
まだまだ続くプチ失踪シリーズ、こんなんで良いのか!?←良くない