正体




あどけない寝顔。
布団をかけ直してやり、あまりの可愛さにおでこにそっとキスをして寝室を出る。
自らも自室に戻りベッドに入った。
目を閉じると同時に部屋のドアが開く。
「アーロン…」
半ベソをかいたティーダが枕を抱いてドアから顔を覗かせる。
「どうした?」
布団をめくって手招きしてやると、ティーダはパタパタと走ってベッドに潜り込んだ。
「ユーレイが来たっス!」
「ゆうれい…?」

「知らないっスか?ユーレイて死んだ人が心残りがあると出てくるっス」
自分のことを言われているようでドキッとする。
スピラではそれを『死人』と呼ぶが、ここでは『ユーレイ』と呼ばれているんだろうか。
「…アーロン…俺こわいっス…」
心底怯えた様子のティーダを複雑な思いで見る。
自分もその『ユーレイ』と大して変わりのない存在なのだ。
幼いティーダは相当怖かったようでアーロンの寝巻を握り締めて震えている。

「今日はここで寝るか?」
「うん!」

ティーダは隣にアーロンがいるという安心感からか、すぐに寝息をたて始めた。
ザナルカンドにも死人のような者がいるとは驚きだった。
会ってみたいものだ、『ユーレイ』とやらに。


次の日の夜。
怖いというティーダの為に、そしてユーレイに会いたい為に、アーロンは寝ずの番をすることにした。
同じ場所に出るのかは分からないが、とりあえずティーダはアーロンの部屋に寝かせた。

ティーダの部屋で数時間待ってみたが何も起こらない。
「ティーダの様子でも見に行くか…」
じっとしていると眠ってしまいそうなのでベッドから腰を上げた。
アーロンの寝室のドアをそっと開けて中を伺うと、ティーダはすやすやと眠っている。
ティーダは寝相が悪いのでいつも布団がはだけている。
音を立てないように忍び寄り、布団を直す。
少し躊躇ってから額にキスを落とすと寝室を後にした。

ティーダの部屋に戻ると部屋の外で物音がする。
気配を殺してドアを開けるとティーダの姿があった。

「ティーダ?」
声を掛けると全身をビクッと震わせ振り返る。
声の主がアーロンだと分かると駆け寄って抱きついてきた。
「また出たっス!!」
アーロンは舌打ちする。
さっき部屋を覗いたばかりなのに…。
そういえば昨日も自分がティーダの部屋を出た直後であった。
偶然?それとも…。

まさか。

今だにぎゅっとしがみついて離れないティーダに恐る恐る問い掛ける。
「…ユーレイの姿は見たのか?」
「ううん、寝てたら何か顔触って…怖くて目開けられなかったっス」

「じゃあ、何も見てはいないんだな…」
「ドア開く音がして目開けたけど、暗かったから」

やはりそうか…。


どうやらユーレイの正体は自分だったらしい。
額にキスした時に起こしてしまっていたようだ。
しかし『寝てるお前にキスしてた』等と言えるはずがない。
なおも怖がるティーダを抱き上げる。
「大丈夫だ、もうユーレイは出ない」
「本当に?アーロン、ユーレイやっつけたの?」

「まあ、そんなところだ…」
「アーロンすごい!強いっス!!」
そう言って首に抱きついてくるティーダに思わず苦笑する。
自分が死人だと分かったらティーダは怖がるだろうか?
「あんまり毛嫌いするな…悪いヤツではない」
首を傾げるティーダの頭を撫でながら、その日も一緒にベッドに入った。


その後勿論ユーレイは出なくなった。

ティーダがユーレイの正体を知るのはまだ先のこと。















【END】



『言い訳』



ええと、リク内容から大幅にずれました…ユーレイに会えるのを楽しみにするお茶目なアーロンがメインだったハズなんですが…(汗)
すみません、私がティーダ以上に怖がりました(爆破)
怖い話苦手なんですよ〜←だから『ユーレイ』とカタカナ表記(え)
岬様、申し訳ありませんでした(陳謝)