Warmth
今夜は冷え込みがきつい。
寒くて眠れない。
皆が平然と寝ている中、ティーダだけはテント内でガタガタ震えていた。
何度も眠ろうと試みたが、手足が冷え、歯がガチガチ鳴ってじっとしていられない。
火に当たって暖まろうとテントを出ると、冷たい夜風が吹き付けて思わず体を縮めた。
「どうした」
薪の向こうにアーロンの姿がある。
ティーダはアーロンが見張り番だったことをすっかり忘れていた。
「寒くて眠れないっス…」
炎をはさんで向かい合う形で腰を下ろす。
スピラに来てからというもの、まともにアーロンと話していない。
いや、ザナルカンドにいた頃からだ。
アーロンがティーダの家を出てから、何となく距離が出来ていた。
気まずい空気に気付かないふりをして薪に当たる。
炎に当たっている面は暖かいが、背中が寒くて体を丸める。
ふわり。
急に何かに包まれて顔を上げた。
「掛けておけ」
アーロンが掛けていた毛布が自分に掛かっている。
「アーロン寒くないんスか」
「寒いな」
「なっ…!」
「くっくっ…嘘だ、気にするな」
そうは言っても寒いに決まっている。
いつでもそうだ。
いつでも自分は子供扱いであしらわれる。
立ち上がり、アーロンの元へ行き毛布を差し出す。
「いらないっスよ」
「寒いんだろう?」
「自分だって寒いんだろっ!」
なかなか受け取ろうとしないアーロンに苛立ち無理矢理押しつけようとすると腕を引かれた。
「だったら一緒に使えばいい」
バランスを崩したティーダは毛布の中でアーロンの腕に抱かれる。
「何っ…オッサン!離せよっ!!」
「…黙っていろ…」
いくらもがいても離そうとしないアーロンに観念して脱力する。
「まだ寒いか?」
アーロンの問い掛けに素直に答えるべきかどうか戸惑ってしまう。
子供の頃はよくこうしてアーロンに暖めてもらった。
それが嬉しくて寒くなくても『寒い』と言った。
そのうちに寒いと言ってもアーロンは暖めてくれなくなった。
そして、出て行った。
「アーロン…」
「何だ」
「…まだ寒い」
ずっと寒かった。
アーロンが暖めてくれなかったから、寒かった。
アーロンは何も言わない。
それでもティーダの体を強く抱き締めてくれた。
心も体も暖まって、頬を伝う涙さえも暖かい気がする。
「…あったかいっス…」
こんなにまでも暖かいのは、きっと、体温のせいだけじゃない。
体の温もりだけでなく、心の温もり。
【END】