学園物語《初登校編》








「いーか?最初が肝心だからな。まずは強ぇヤツから潰せ!!」
「もう黙ってろよ!」

ティーダは父ジェクトとスピラ学園の校長室にいた。
今日からこの学園に通うにあたり、授業前に校長に会うことになっていた。
「自分のガキなめられんのは我慢ならねぇからな。俺が校長脅しといてやらぁ」
「やめろって!!」
なにげに親バカなジェクトに苛々しているところへ校長が入ってきた。
「お待たせして申し訳ない」
ブラスカと名乗った男は、年はジェクトと同じ位だろうか、温和そうで気品がある。

(親父とは正反対だな…。)
ちらりとジェクトを盗み見るとさっきまでの勢いはどこへやら、ぽかんと口を開けてブラスカを見ている。
「ティーダ…お前にオフクロ…いや、親父がもう一人できちまうかもな…」
「はっ!?」
小声で囁かれた言葉の意味が全く分からなかったが、深く追求してはいけない気がしてティーダは口をつぐんだ。

一通り学園の理念等の説明を聞き、ブラスカに促され部屋を出ようとすると父の声が追い掛ける。
「ぜってぇなめられんなよ!全員しめろっ」

無茶苦茶なジェクトの言葉にげんなりするティーダにブラスカが優しく微笑み掛ける。
「すみません…バカな親で…」
「素敵なお父様じやないか、いや、分かってらっしゃる」
うんうんと嬉しそうに頷く校長に一抹の不安を覚える。

そして、悪い予感は当たるものである。


さっきからずっと担任のメイチェン先生は喋りっぱなしだ。
挨拶もそこそこに
『私が赴任してきてからの話をしてもよろしいですかな?』
と喋りだし、かれこれ何時間か経っている。
マシンガントークである。

メイチェンの授業のある4限を前にしてやっと解放された。

「はぁ…」
転入生としての紹介もされぬまま席に着くと、すぐに4限目が始まった。


英語のシーモア先生はなかなか美形である。が、教室内の緊張度が尋常ではない。
誰かが問いに答えた後シーモアが
『残念ですが…正解です』
と怪しく笑う度に皆がフリーズする。

4限目終了後、ティーダはそのシーモアに廊下へ呼ばれた。
教室を出る間際のクラスメートの憐れみの眼差しが気になった。

「…何スか?」
出来るだけ平常心を保って聞いたつもりなのだがシーモアの不敵な笑みの前に声が上ずる。
まさに蛇に睨まれた蛙。
「あなたは宿題をしてきませんでしたね」
「あの、今日転入してきて…」
「言い訳はよくありませんよ…悪い子にはお仕置きが必要ですね…フフフ」
なんて理不尽な、と思う間もなく、シーモアは物凄い力で腕を引いて歩きだす。
「何するんスかっ!?」
「怖がらなくても可愛がって差し上げますよ…?」

(あぁ…俺どうなるんだろ…)

諦めかけたその時。

「そのへんで止めてやれ…」

白馬に乗った王子様ならぬ白衣を纏った救世主登場。
「おや、アーロン先生…もしや…やかれてらっしゃるんですか?」
ねっとりとした視線を断ち切るようにアーロンに殺気が漲る。
シーモアが一瞬怯んだ隙にティーダはアーロンの後ろに逃げ込んだ。
「しょうがないですね…今回だけは見逃してあげましょう…今回だけですよ…」
シーモアは心底悔しそうな顔をして去っていった。
「あ…ありがとうございます!!」

「いや…また何かあったらいつでも言って来い」
低く響く声。
がっしりとした体にクールな顔立ち。
「俺は化学の教師だ…理科室にいる」
そう言って歩いて行くアーロンの背中に向かって何度もコクコク頷くティーダの目は完全にハート型になっている。
(かっこいい……)
暗闇の中に光が見え始めた気がした。


ティーダの学園生活はまだ始まったばかり。
























【END】