Calling you
眠れぬ夜。
一人暮らしの夜は長く寂しい。
人気のない家の中で静寂に押し潰されそうになる。
ティーダはベッドに横になり、枕を抱いて体を丸めた。
寂しい。
何故かは分からないがひどく寂しい。
いつもと何ら変わりのない夜だった。
一人暮らしは今に始まったことではない。
日中はいつも通り学校へ行った。
夜はアーロンと夕飯を食べた。
何も変わったことはない――ただ眠れないというだけのこと。
ティーダは自分が世界から見放されたような孤独を感じていた。
たまらなく人恋しかった。
誰かに傍にいてほしい。
電話でもいい、誰かの存在を感じたい。
誰かといいながらもティーダの頭に浮かんでくるのはアーロンの顔。
気付けば頭の中はアーロンで埋まっていく。
全ての考えが、全身が、アーロンに向かう。
抑えようとすればする程深みにはまっていくことにティーダは気付かない。
分かっている。
自分から連絡すれば済むことなのだ。
どんなに疲れていてもアーロンが自分から電話を切ることはないだろう。
「会いたい」
その一言で何時でも何処へでも駆け付けてくれるだろう。
しかし、ティーダは連絡しようとは思わない。
訳もなく寂しい、そんな理由でアーロンを煩わせたくない。
――本音をいえば、ほんの少しでも煩わしいと思われることが怖いのだ。
ティーダは思う。
これがドラマや小説なら、何も言わずとも恋人が現れるのに、と。
しかし、現実はそううまくいかない。
こんな夜中にアーロンが電話を掛けてくる筈もなく。
突然訪れる筈もなく。
当然ティーダの寂しさなど知る由もなく、きっと今頃は夢の中。
そう考えるとアーロンにまで見捨てられた気分になってきて、余計に寂しさが増した。
「アーロンのバカ」
心の中で呟くと、涙が零れた。
鳴らないと分かっている電話。
それでも淡い期待と祈りを込めてそれを見つめる。
ティーダは気付いていない.
いつの間にか理由のない寂しさがアーロンのいない寂しさに変わっていることを。
ティーダは知らない。
アーロンもまた眠れぬ夜を過ごしていることを。
呼べない名前を呼び続け、ティーダの夜は更けていく。
【END】