Don’t touch





とある昼下がり。

「動くんじゃねーっ!」
銃声と共に男の怒声が響き渡る。
銀行内は就業間近にも関わらず大勢の客がいる。
その中に片目に傷のある男と金髪の可愛らしい男の子の姿があった。

(面倒なことになったな…)
アーロンは小さく溜息をつきながら幼いティーダを見やった。
何が起きているかわからないようでキョロキョロ辺りを見回して怯える様子がないのがせめてもの救いだ。

自分だけなら何とでもなるのだが、ティーダを連れてとなると身動きがとれない。

(おとなしくしているのが賢明か…)

そう思った瞬間、突然ティーダが走りだした。
「ティーダ!?」
しまったと思った時には既に遅く、ティーダは強盗に捕らえられていた。
「動くなっつったろーが!」
軽々と抱き上げられ銃口が向けられると、ティーダはわぁわぁと泣きだした。
「うるせぇぞ、黙れクソガキ!」
その言葉にアーロンの顔からすうっと表情が消えた。

「…その子を放せ」

犯人にゆっくり歩み寄るアーロンの足元に弾丸が散る。
「動くなって言ってんだろーが!」
興奮する犯人とは逆に恐ろしい程静かに、不敵な笑みを浮かべて足を進める。
銀行内に今までとは違う緊張が走る。
「ガキがどーなってもいいのか!?」
「…その子にかすり傷でもつけてみろ。どうにかなるのはお前の方だ」
そうアーロンがニヤリと笑った時、ティーダが犯人の腕にかぷりと噛み付いた。

「イテッ!?」
思わず力が抜けた犯人の腕からティーダが床に落ちた隙に、アーロンは尋常でない速さで犯人につめ寄り、銃を持つ手をねじり上げた。

――そう、アーロンはティーダのこととなると想像を絶する力を発揮する。
が、犯人がそれを知る由もない。
ティーダを捕らえてしまったのは運が悪かった――


形勢逆転。
ねじ伏せられた犯人の頭に容赦なく銃口が押し当てられる。
「た…助けて…」
蚊の鳴くような声で助けを請う犯人を無視してティーダに微笑みかける。

「怪我はないか…?」
「うん、ない!」
そう答えたティーダの膝が擦り剥けているのを見つける。
床に落ちた時に擦ったのだろう。
アーロンの顔から笑みが消える。
「ホラ、お子さんもああ言ってるし…」
「……死刑決定だ」
「えぇっ!?そんなっ!!」
心底怯えて泣きだす犯人の頭に当てた銃を握り直す。

「死ぬ前にせいぜい祈れ」

アーロンが引き金に手をかけると、ティーダがしかめっ面でアーロンの服を引っ張った。

「アーロン、弱いものイジメはダメだって学校で習わなかった?」
真剣な眼差しで首を傾げるティーダに思わず笑ってしまう。
「…そうだったな」
ティーダには滅法弱いアーロンは、警備員を呼ぶとあっさり犯人を引き渡した。


やっと自分の手に戻ったティーダを優しく抱き上げる。
「そういえば…お前何で走りだしたんだ…?」
「おしっこ行きたかったからっス!」
「クックック…なるほど…」

一人て行けるというティーダの主張にも、また何かあったら困ると譲らないアーロンがついていく。
トイレから出て何事もなかったかのように銀行を去る二人の姿をその場にいた全員がぽかーんと口を開けて見守っていた。




アーロン付ティーダ、もといティーダ付アーロンに迂闊に近寄ってはいけません。




















【END】