Stay






時間が過ぎるのが遅い。一日がとても長く感じられる。
色彩を欠いたような部屋の中ですることもなくソファに身を埋める。


アーロンが家を出て行くと言った。
「何で?嫌だよ!」
驚いて嫌がると頭をくしゃくしゃと撫でられた。
「このままここにいると理性が保てそうにないんでな」
言葉の意味が分からず首を傾げて見せるティーダをアーロンは笑って抱き寄せた。

「俺はお前が好きだ」
思いがけない告白に頭の中が真っ白になって、アーロンの顔を見上げた。

「…そんな顔をするな。キスしたくなる」
「きっ、キス!?」

真っ赤になって腕から逃れると、アーロンはクックッと笑いながら荷物を手にした。

「安心しろ…お前が俺を恋しいと思えば、いつでも戻ってきてやる」

そう言って、アーロンは本当に家を出て行った。

アーロンがいなくなっただけで別の家みたいだ。
一人ってこんなにつまらないんだっけ。
一人ってこんなに淋しいもんだっけ。

一人だから?

それとも、アーロンがいないから?



『キスしたくなる』

アーロンの言葉を思い出して再び顔が熱くなった。
「アーロン…」
その名前を口にしてみると、胸がドキドキする。

「したきゃすればいいじゃん…」

自分が呟いた言葉に慌てて辺りを見回すが、薄暗い部屋の中には当然誰もいない。

溜め息を一つついて膝を抱える。


アーロンがここにいたら。


そう思った時、リビングのドアが開いた。
「…どうした?電気もつけずに…」
アーロンが一歩部屋に踏み込んだ途端、家が色を取り戻した様に思える。
「アーロンこそ…どうしたんスか」
「忘れ物をしてな」
戻ってきたという言葉を待っていたのに、期待を裏切られて内心がっかりする。
「ホントは戻りたいんじゃないっスかぁ〜?」
素直に言えなくて、わざとおどけて言ってみる。「ああ、戻りたいさ。無理だがな」
「…戻ってくれば」
あっさり言われたことが少々腹立たしくて口を尖らせると、アーロンはククッと笑う。
「…襲ってほしいのか?」
「おっ…おそっ…!?」
口をパクパクさせるティーダに笑みを見せた後、アーロンは飾ってあった写真を愛おしそうに手にした。
ティーダが笑っている写真。
それをそっとポケットにしまうと、ティーダの頭を軽くポンポンと叩いてドアへ向かった。行っちゃう。
アーロンがいなきゃ、やだ。

思った時には抱きついていた。
「戻ってくりゃいーじゃんっ!」
言葉が続かなくて、ただアーロンを見つめる。
そんなティーダを見てアーロンは苦笑した。

「言っただろう?そんな顔するとキスしたくなると…」
「…すればいいだろ…」
「ティーダ…?」
「すればいいって言ったんだよっ!!」
驚いた顔でまじまじと見られ耳まで赤くなって俯くと、顎を引き上げられ口付けられた。

口内を舌で探られる痺れるような甘い感覚に力が抜けそうになり、アーロンの首にぶら下がるように腕を回す。


俺もアーロンが好き。
やっと気付いた。


ふいに唇を離された物足りなさに思わず口を開くと、もう一度深々と口付けられる。
長い長いキスの後、強く抱き締められた。

「…戻ってきなよ」
「そうだな…もう理性もいらないようだしな」
ニヤリと笑われて急に恥ずかしさが込み上げる。

「かっ、勘違いするなよっ!アーロンが可哀相だからっ…」
「くっくっくっ…そういうことにしておくか…」
アーロンは可笑しそうに笑いながら額にキスをする。
その唇が段々と耳から首筋に下りてくる。
「ちょっ…アーロンっ!!」
慌てて体を離そうとするティーダをしっかり捉まえて耳打ちする。
「…言ったろう?理性を保てそうにないって…」
「ばっ…!調子に乗るなあぁっ!!」

アーロンがいなきゃやだ。

アーロンが好き。


でも、なんだか手のひらで転がされているようで悔しいから、まだ言ってあげない。


なんて思いながらも、アーロンの甘いキスにその決意もすぐに挫けそうな予感…。














【END】