Deep River






夢でもいいから
俺を消さないでと




夢でもいいから
あんたの傍にいたいと





そう願う気持ちも
罪なのかな
ザナルカンドで自分の正体を知って、俺は混乱していた。
シンを倒す為にみんなで頑張ってきて、俺もその為にここまできて。
だけど全てが終わって俺に何が残るの?
残るどころか俺は消えるんだよ。


それなのに、あんたもシンを倒したい?
シンを倒す為だけに、死して尚俺を守り、俺をここに連れてきたの?
俺が消えるとわかっていて──



わからない、
あんたの気持ち。


認めたくない、
現実を。

訴えるような目で見る俺に気付いたアーロンは、俺の心の中を見透かしたように苦笑する。
「何か言いたそうだな…」
「…別に」

全てぶつけてしまいたい。
でも、こんな時でさえ自分勝手なヤツと思われたくなくて、できない。

アーロンの傍にいたくて、失うのが怖くて、今まで想いを口にできなかった。
結局全てを失うことになるとも知らずに。


バカみたいだ、俺。
ティーダの混乱が手に取るように分かる。


ついにここまで来てしまった。


分かっていたこととはいえ、ここへ近付くにつれ、胸の痛みは増していた。


お前の気持ちを受け入れ俺の気持ちをぶつけたら、別れられなくなる。

そう思っていた。


でも間違っていたようだ。
自分に嘘をついても、別れは同じようにこうして俺を苦しめる。
そんな事に今更気付くなんて。

愚かなもんだ。

もう、
我慢する理由など
何もないから


「お前の望むようにして、いいんだぞ」


その言葉に
自分の想いも託して





言ってくれ


消えたくないと



言ってくれ


このままいたいと


どうして今になってそんな顔するの?

どうして今になってそんな目で俺を見るの?


自分でも気付かぬ間に流れ落ちた涙を、アーロンの指が拭ってくれる。
抑えていた想いは一気に溢れだして、もう止まらない。

「消えたくない…あんたの傍にいたい…。ずっと好きだったんだ、ずっと」

アーロンの腕が俺を包んで、求め続けていたその場所の暖かさに胸が震える。
何度も何度もアーロンの名前を読んで、この温もりを失いたくないと必死でしがみつく。

それに応えるように強く俺を抱くアーロンの腕に、離さないでと願う。
「お前が望むなら、このまま旅を止めてもいい。与えられたものを全て受け入れる必要などない」


どうして?


「お前が望まないことを俺はしたくない。」

アーロンは全てを終わらせる為に俺をここに連れてきたんじゃないの?

何で今更そんなことを言うの…?

俺は狡い。
お前に苦しい選択を押しつけている。
でも俺は待っている。
お前が旅を止めると言うことを。


お前が夢であっても、

たとえ皆やジェクトを裏切ることになっても

俺はお前の傍にいたい。


今まで、それが運命と受けとめてきたが、俺もお前も望まない運命をどうして受け入れる必要がある?

そんな矛盾を押し切ってまで、お前以外の誰を守れというんだ?

「…アーロン、あんたは…どう思う?」

ティーダが恐る恐る、しかししっかりと俺の目を見て聞いてくる。



言えなかった想い
応えられなかった想い


好きだとか、愛してるとか、そんな言葉では言い尽くせない。
言葉にするには言葉が足りなくて。


答える代わりにティーダの震える唇に自分の唇を重ねた。

その腕も、その胸も、その唇も、あんたの全部。

離したくない。
忘れたくない。

離さないで。
忘れないで。


消えたくないよ。
このままあんたと逃げ出したいよ。



だけど、そんなこと出来ないって分かってる。
分かってるけど、最後にあんたと気持ちが繋がったから。




この唇が離れたら


また前に歩きだすよ

それでも最後は共に生きよう。
別れを受け入れたりなどしない。
万に一つの可能性でも見逃さないよう、二人でもがき続けよう。



時には流れて


何も持たずに


与えられた名前とともに


全てを受け入れるなんて
しなくていいよ

潮風に向かい鳥たちが

今飛びたった
【END】