☆mark



『アーロン好き』とティーダが口にする度に俺は辛くなる。

無邪気に笑いながらじゃれついてくるティーダをあっちへ行けと突き放す。それでもティーダは臆することなく抱きついてきたりする。俺はしまいには少しきつい口調でティーダを叱るはめになる。するとティーダは少し膨れて見せて、
「アーロンだってホントは俺のこと好きなんでしょ」
などと言う。

そう、俺はティーダが好きだ。でも決してそれをティーダの前で認めたりしない。なぜって、ティーダの『好き』と俺の『好き』は違うからだ。
ティーダはただ単に親に甘える子供のように俺を好きなだけであって、俺は違う。ティーダの全てが欲しい。心も体も全て。
そんな感情をティーダにぶつけられるわけもなく、正直自制心を保つだけで精一杯だった。
だからティーダが好きと言っても、俺は好きじゃない、とか何とか言ってしまう。ティーダに好きと言われるうちに勘違いしてしまいそうな自分が怖くて、必要以上に冷たくする。

その日もティーダは俺の冷たい態度にもめげずにまとわりついてきた。
「暑苦しいから離れろ」
目も合わせず手でしっしっとやると、ティーダは嫌がらせのように抱きついてくる。
「いーじゃん。俺アーロンのこと好きなんだもーん。アーロンだって好きなくせに」
限界だった。傷つけたくない、そう思っていたはずなのに。


こんなに苦しいなら、想いが叶わないなら、いっそのこと傷つけて嫌われてしまえばいい…。


上目使いで俺を見上げるティーダの顔を見た瞬間、俺の中で何かが弾け飛んだ。

俺に抱きついていたティーダを逆に抱き上げ、ソファーに転がす。
「教えてやる…好きってことがどういうことかを」
「え…アー…んっ!?」
言葉を遮るように乱暴に唇を重ねると、ティーダは驚きのあまり動きを止めた。口内を探り舌を絡めると、我に返って俺の体を押し退けようとする。胸を叩く腕を頭の上に持って行き、片手で押さえ込む。ティーダがどんなにもがこうとも、俺の力に適うはずがない。

「アーロンっ、何?どうしたの!?」
ティーダの問いには答えず、片手でシャツを捲り上げる。胸の突起に触れるとティーダの体はびくっと震えた。
「や…アーロン!やだっ!」
指の腹で押さえつけるように捏ねると、ティーダはいやだと首を振る。
「お前が悪い…」
耳元で囁いてそのまま耳から首に舌を這わせる。

ティーダは何も悪くはない。

それでも、もう抑えのきかなくなった俺は、全てをティーダのせいにして行為を続ける。

「やめ…っ!あーろ…」
抵抗しながらも、ティーダの体は確実に反応を示す。胸に唇を押し当て、舌と指で二つの突起を弄ぶ。「やめて」の言葉の間にも段々と甘い喘ぎが混じり始めて、ティーダの下肢へと手を伸ばす。
「んぁ……っ」
衣服の上からもわかる程に形を変えたそれを撫で上げると、ティーダの背中が反り返る。ズボンを膝まで下ろして顕になったモノを掴むと、ティーダの目から涙がこぼれた。
「俺の手…放して…も…暴れない…から」

全てを諦めたようなティーダの言葉に、一瞬手を止めた。
「お願い……」
苦しげな顔で真っすぐに俺を見るティーダから思わず目を逸らした。


オレハナニヲシテイルンダ?


傷つけたくなかったはずだった。守るべきはずの者だった。
自分の苦しさから逃れる為だけに、自分の欲望を満たす為だけに、ティーダを傷つけている自分。

こんなことをしておいて、ティーダを好きだなんて言えるのか?
胸をはってこれが愛だと言えるのか?

許してくれとは言えない。許されるとも思わない。でも、今更後に引くことはできない。
嫌ってくれていい。
嫌ってくれればいい。

そして俺を拒絶してくれ

──もう、好きだなんて言わないでくれ──


ティーダの胸をきつく吸い、赤い跡を一つ残した。跡はすぐに消えるけれど、お前の中に少しでも俺を残しておきたかった。

お前がその跡を見る度に俺を思い出すように。
例えそれが憎しみからであったとしても。

適わないとわかっているからか、押さえ付けていた手を放してもティーダはその言葉通り抵抗することはなかった。
大人しくなったティーダの衣服を全て剥ぎ取り自分も服を脱ぎ捨てると、再びティーダのモノに手をやり扱き始める。ソファーを握り締め、固く目を閉じながらも声を洩らすティーダの姿に煽られる。
溢れる先走りの蜜を指に絡めて蕾に差し込むと、その痛みにティーダの体が跳ねた。
「ああぁ……っ!」
容赦無く指を抜き差しするうちにある場所でティーダの反応が変わり、そこを執拗に責める。

「あっ…あっ……ん…っ!あーろ…んっ」
ふいに名前を呼ばれて驚いて顔を上げると、涙を流しながらも懇願するようなティーダの目。たまらなくなって口付けると、思いがけなくティーダの手が背中に回ってきた。

「アーロン…アーロン…っ!」

何故俺の名を呼ぶのかなんて考える余裕はなかった。俺の名を呼びながら必死にしがみついてくるティーダがあまりにも愛おしくて、抑えの効かなくなった自身をティーダの中に押し込んだ。
「いやああぁっ!!」
激痛による悲鳴。ティーダの爪が背中に食い込む。

硬直した体をなだめるようにティーダのモノを擦ってやると幾らか力が抜け、ゆっくりと動き始める。徐々に和らぐ悲鳴に反比例して動きを早め、ティーダの良い場所を確実に突く。

「もう…っ…あ…ろんっ…」
限界を訴えるティーダ。ずっと欲しくてたまらなかった自身に絡みつくティーダの熱に、俺も限界を感じていた。
前を扱く手を早めながら、無我夢中で腰を打ち付ける。
「ああぁっ……!」
「くっ…ティー…ダっ…!」
俺の手の中にティーダが白濁の液を吐き出したと同時に、俺はティーダの中に欲望を放った。

意識を失くしたティーダに布団をかけてやり、まだ乾いていない涙の跡を指で拭う。
こんな風にティーダとの生活に終わりが来るとは思ってもみなかった。あんなに欲しいと思っていたのに、体だけ手に入れても虚しさと激しい自己嫌悪しか残らない。

「愛してる…」

伝えられなかった想いを口にして自嘲する。何が愛だ。こんな風に傷つけておいて。
お前が目覚める前に俺は消えるから。もう顔を合わせることはできない。
せめて、この背中の爪跡が永遠に残ってくれたらいいのに。お前の跡を、残しておけたら…。

「すまなかった…お別れだ」

そっと唇を重ねる。このまま時間を止めてしまいたい。しかしそんなことが出来る訳もなく、やっとの思いでティーダから離れてそのまま背を向けた。

「どこに行くの…?」
腕を掴まれ、驚いて振り返ることも振りほどくことも出来ずに立ち尽くす。
「アーロンは俺のこと好きだから抱いたんだよね…そうだよね」
頭の中が真っ白になっている。何も言葉が出てこない。
「違うの?…そうだって言ってよ…。俺のこと、好きで好きでたまらないって、そう言ってよ!」

腕を掴んでいた手が離れたかと思うと、後から抱きついてきた。ティーダの手が震えている。いや、手だけではない。それはそうだろう、あんな目に合わされたのだから。
──でも、それなのに、何故?

「今更好きだなんて言わせてどうなる…。俺はお前を…」
「好きだって言ってくれてたら、俺、『やだ』なんて言わなくて済んだのに……お願いだから、好きだって言って…」

色々な想いが胸を交錯する。それでもやっぱり俺はティーダを好きで、この期に及んでも離れたくないと心が叫ぶ。

ティーダの腕の中で体を反転させ、ティーダに向かい合う。怯えるようなすがるようなその目を見て、言葉が自然に口をつく。
「お前が好きで…好きでどうしようもなかった…。許してくれとは言わない…。俺はもう…消えるから」
「…やっと言ってくれたね」
ティーダの腕が首の後に回され、ぶら下がるような格好で抱きつかれる。ティーダの行動・言動を理解できずに、俺の手は行き場を失っている。ただ狼狽える俺を見て、ティーダは泣きながら笑ってみせる。

「ずっと言ってたでしょ、俺はアーロンのこと好きだって。だからそんなに悲しい顔しないでいいんだよ…」
ティーダの言葉に耳を疑う。
こんな俺でさえも好きだと言ってくれるのか?
俺を許してくれるというのか…?

「俺の胸に『アーロンのもの』って印をつけたくせに、消えるなんて言わないで…。
跡が消えたらまたつけてよ。ずっとずっとアーロンの印がなくならないように……」

ずっと抑えてきた感情が溢れ出して、狂ったようにティーダの名を呼ぶ。

夢ではないと確認するように、強く強くティーダを抱きしめる。愛しくて、苦しくて、目頭が熱くなる。

「ティーダ、愛してる…」

「わかってたよ、ずっと」


欲しくて欲しくてたまらなかったものは手を伸ばせばすぐ届く所にあった。
気持ちを伝えられず傷つけた分、これからずっと側にいるから。
守っていくから。
愛し続けるから。

そう心に誓った時、膿を吐き出すかのように、俺の頬を一筋の涙が伝った。


【END】