スピラに来てからずっとモヤモヤしている。
アーロンは伝説のガードなんだって。
オヤジとユウナのオヤジさんと旅をしていたんだって。
今の俺たちのように。
一緒に旅をしてるってことは、一緒にいられるってこと。
アーロンとオヤジもずっと一緒にいたってこと。
アーロンの昔の旅のこと、知りたい。聞きたい。
俺とアーロンが一緒にいることに、
アーロンが俺の側にいたことに、
オヤジが関係してるの?
関係してないわけがないよね。
聞くのは怖いけど、アーロンのこともっと知りたいから。
アーロンと二人、野営の見張りで火を囲む。
「アーロン、昔の旅の話をして。オヤジとのことを聞かせて。」
突然の俺の言葉にアーロンは少し驚いた顔をして、それから少し笑った。
そしてゆっくり話し始めた。
オヤジがスピラに来た時のこと。
オヤジが酒を止めた時のこと。
オヤジが覚悟を決めた時のこと。
アーロンがオヤジの名を口にする度に、俺は困惑した。
懐かしむように遠い目をするアーロン。
切なそうに『ジェクト』と発する唇。
「ジェクトと約束した…お前を守る、と」
胸が痛かった。苦しかった。
聞かなければ良かった。
アーロンにまで俺は『ジェクトの息子』として見られているの?
俺を通してオヤジを見ているの?
俺は俺なのに。
オヤジの代わりじゃないのに──
炎がアーロンと重なり、アーロンも幻のように揺らめいて見える。
側にいるのに、遠くに感じて。
ここにいるのに、いないみたいで。
アーロンの『好きだ』も『愛してる』も、
俺がオヤジの息子だからなんだって思えて。
全部嘘に思えて。
涙が溢れた。止まらなかった。
「ジェクトが恋しくなったか?」
ジェクト、ジェクト、ジェクト。
やっぱりオヤジ。
もうその名を口にしないでほしいのに。
「『ジェクトの息子』じゃなくて、俺は俺なのに…誰も俺なんか見てくれないっ…」
みんなそうだ、母さんだって…。
アーロンだけは違うって思ってたのに。
「オヤジなんか、大っキライだ!」
いつの間にか横に来たアーロンに強く抱かれる。
裏切られた気分で一杯なのに、その腕の温もりはあまりにも愛しくて。
口をつく『離して』の言葉とは裏腹に、俺の腕がアーロンを離さない。
「ジェクトの言う通り、お前は本当によく泣くな…。昔も、今も」
またオヤジ。
もういいから、わかったから。
もう聞きたくないと首を振る。
「お前は何もわかっていない…」
わかってる。
例えオヤジの息子としてしか見てもらえなくても、
それでもアーロンを好きでどうしようもない自分を。
何でもいい。
どんな理由でもいい。
この温もりを失いたくない。
「俺、オヤジの代わりでもいいから…だから…側にいて…」
その時のアーロンを、俺は絶対忘れないと思う。
怒りと悲しみの入り交じったその顔を。
痛い程に力が込められたその腕を。
「確かにジェクトとは約束をした。お前を守ると。だがお前を愛すると約束した覚えはない」
──ああ、
「ジェクトには感謝している…。お前と逢わせてくれたのだからな」
俺はなんて、
「俺は俺の意志で、誰でもない、お前を愛しているのに──」
ばかなんだろう
「お前は何もわかっていない…。ジェクトの気持ちも、俺の気持ちも」
愛されたいと思いながら、
信じることが出来ずに
愛してくれる人を傷つけて
俺を見てと言いながら
自分のことしか考えられずに
周りが見えていなくて
アーロンは『わかっていない』と何度も繰り返しながら俺の肩に顔を埋める。
俺は『ごめんなさい』と何度も繰り返して許しを乞う。
アーロンの腕に抱かれた体も、アーロンの言葉が刺さった胸も、痛くて痛くてたまらない。
俺が思う以上にアーロンの心はここにあって、まっすぐ俺に向けられている。
オヤジの影に捉われていたのは、
俺自身だった。
何もわかろうとしてなかった俺。
ちゃんと見るから。
ちゃんと向かい合うから。
だから、アーロンのこと、オヤジのこと、もっと聞かせてほしい。
夜が明ければまた旅は続く。
アーロンとオヤジが歩いた道程を、
アーロンは再び俺と歩いて行く。
オヤジ達の旅が終わって、何があったかはわからない。
俺達の旅の終わりに、何が待っているかはわからない。
だからこそ今、
見えていなかったものを全て見ておきたい。
知らなかったことを全て聞いておきたい。
今確かにここに存在する温もりを、
そして真実を、
まっすぐに抱きしめたいから