Silent word



「だからワッカ大好きっス♪」

知ってるんだよ。
アーロンが後から俺を見てること。
まるで背中に目がついてるみたいにはっきりわかる。
俺は知ってて他の人にじゃれつく。

知ってるんだよ。
本当は怒っていること。
でも言わないんだよね。
平気な顔してるんだよね。
だからみんなは知らないかもしれないけど、俺は知ってるんだ。
アーロンが実はやきもちやきだってこと。

はじめは気が付かなかった。
アーロンは何も言わないし。

でもある日ワッカとふざけあっている時、ふと視線を感じて振り返った。

そこには俺たちを見つめるアーロンがいて。
「アーロぉ〜ン♪」
おいでよって意味で名前を呼んだのに、プイっと横を向いて行ってしまった。

まぁいっか、と思っていたその日の夜、アーロンはいつもと何か違う気がした。

いつもよりも無口で、何かを考えているようで。
俺が何を話しても「ああ」とか「そうか」とかそんな相槌ばかり。

俺は少しムッとして、一人でベッドに入った。
そうしたらアーロンもベッドに入ってきて、背中を向けた俺を後から抱きしめた。
その腕がとても強くて、身動きが取れなくなってしまう。

「ちょっ…アーロン!何っスか!?」
腕の中でもがく俺をよそに、アーロンは微動だにしない。

何を言っても何を聞いても反応しないアーロン。
観念した俺はそのままアーロンに抱きしめられていた。

しばらくしてアーロンがついた深い溜め息の意味がその時の俺にはわからなかった。

それからも何度か、アーロンは何も言わずにずっと俺を抱きしめることがあった。
思い返してみればそんな日はいつもワッカと二人でいた日で。

それに気付いてからやっと理解できた。
アーロンは俺とワッカにやきもち妬いてたんだって。

そしたら、何だか妙に嬉しくって、わざとワッカにじゃれついてみたり。

アーロンがやきもち妬くのが可愛くって。
何も言わずに俺にだきつくアーロンが可愛くって。
もっといじめたくなってしまう。
アーロンはいつも感情を表に出さないから、余計に。

ねぇアーロン、やきもち妬くっていうのは、それだけ俺のことが好きってことだよね?

言ったらいいのに。
俺だけ見てろって。
他のヤツといちゃつくなって。


そしたら、
俺にはアーロンしかいないって、
言ってあげるのに。


言ってくれれば、
俺ばっかりこんなに好きなのかなって
思わなくてすむのに。


【END】