アーロンの作ったごはんはおいしい。
俺にとっては世界一。
今日の夕飯もむちゃむちゃうまくて、ついつい食べ過ぎてしまった。
「ごちそう様〜!うまかったぁ〜」
「それはどうも」
食器を流しに運びながらアーロンが笑う。
「アーロンのご飯はホントおいしいよね〜」
「おだててもこれ以上何も出んぞ」
別におだててるわけじゃないのになぁ〜。
「そういえば、日曜仕事になった」
「えぇ〜っ!?」
せっかく俺もブリッツの練習休みなのに…。
アーロンはふてくされる俺に気付いて苦笑する。
「すまんな…昼飯は作っておくから。夕飯は一緒に食えるように帰る」
「ん〜…」
気のない返事を返して椅子の上で膝を抱え込み、落ち込んでる事をアピールする。
「ティーダ」
ふーんだ。
「ティーダ…なぁ、ティーダ…」
ふーんだ、いじけてんの!
「……」
アーロンは諦めたかのようにため息をつき、食器を洗いだした。
カチャカチャと食器の触れ合う音。
ふぅっとアーロンのため息。
俺ってワガママだよな…。
仕事だからしょうがないってわかってるくせに。
アーロンだって疲れてるはずなのに、今だってご飯を作って後片付けをして。
俺はアーロンに頼りっきり。
突然アーロンに対して申し訳ない気持ちで一杯になった。
ちらりとアーロンの方を見ると目が合って、アーロンがニコリと笑う。
「コーヒーでも飲むか?」
優しいアーロン。
ワガママな自分が恥ずかしくて、俯いたままコクリと頷く。
テーブルを挟んで向かいあってコーヒーを啜る。
「アーロン、俺…ワガママでごめん…」
「気にするな…慣らされてるからな」
優しい眼差しで言うから、思わず笑ってしまう。
確かに俺はいつもワガママばかりで…言い返す言葉もないんだけど。
たまには俺もアーロンに何かしてあげたいな…。
「ティーダ、日曜の昼飯何がいい?」
「うーんとねー…」
「…淋しい思いさせて悪いな…」
そんな風に謝らせてしまう自分に自己嫌悪。
そうだ。
いいこと思いついちゃった。
「俺、アーロンにお弁当作る!」
突然の申し出に、アーロンはびっくりしている。
「気持ちは嬉しいが…作れるのか…?」
うっ…。
言ってはみたものの、あまり自信があるわけではない。
「作れるかってゆーか…作るの!!」
「くくっ…楽しみにしてるよ」
頑張ってアーロンにおいしいお弁当作るっス!
頑張るぞ〜っ!!
そして日曜の朝。
アーロンが8時に出掛けるので、余裕をもって6時に起きた。
「ふぁ〜ぁ…。」
滅多にそんな時間に起きないからまだ目が冴えない。
でも、アーロンにおいしいって思ってもらいたいから頑張るぞ。
…と思ったのに。
ガッチャーン!!
「あちっ!」
鍋をひっくり返す。
「うわっ!」
魚を焦がす。
「…まずっ…」
味付け間違えたかな…。
うわーん、どうしよう、全くうまくいかない…。
その頃アーロンは目を覚ましていたものの、ベッドの中にいた。
台所から物凄い音がする度に駆け付けたい衝動に駆られるのだが、じっと耐える。
時計は6:50。
もう少し寝たフリをしててやるか…。
心配ながらも一生懸命なティーダの姿を思い浮かべてほくそ笑んでいた。
どうしよう…。
もう7:20。
いつもならアーロンとっくに起きてる時間。
でもまだ…。
「おはよう」
「アっ…アーロン…!…おはよ…今日は遅かったね…」
「ああ、寝坊してしまったな…」
「で、作ってくれたのか?弁当」
「それが…」
お弁当作るなんて言わなきゃ良かった。
できもしないのに…。
「ごめん、頑張ったんだけどこれしか…」
とりあえず作ったオニギリを恐る恐る差し出す。
三角に握れなくて不恰好な丸いオニギリ。
今の俺みたい…。
「ごめんね、アーロン…俺には無理だったみたい」
自分で言って泣きそうになる俺をよそに、アーロンがそれを一つ口に運んだ。
「うまい」
食べおわったアーロンは指についたご飯粒を唇で取っている。
「オニギリなんて誰が作ったって味同じだよ…俺のは形も悪いし…気使わないでいいよ」
落ち込んでしまった俺の手からアーロンはオニギリの山を取り上げる。
「持っていっていいんだろ…?」
アーロンの為に何かしてあげたいと思った自分。
でも、おこがましいよね、何もできないくせに。
こんな物、アーロンに持たせたくない…。
「やだ…」
「そんなの持っていかなくていいよ!!」
涙目で訴える俺を見て、アーロンは優しくなだめるような口調で言った。
「俺の為に作ってくれたんだろう?」
そうだけど…。
「俺は、俺の為だけにお前が作ってくれたことが嬉しいんだ」
だけど…。
「お前が作ってくれた物は、俺にとって最高のご馳走になる。お前が作ったことに意味があるんだ」
アーロン…。
「今まで食った物の中で、一番うまかった」
気を使ってくれたのかもしれないけど、あんまり嬉しくてアーロンに抱きついた。
支度をして出掛けるアーロンを玄関まで見送る。
「もっと料理うまくなって、今度こそちゃんと作るっス…」
「ティーダ、俺の作る飯はうまいか?」
靴ひもを結びながらアーロンが聞いてくる。
「うん、むちゃくちゃ」
アーロンは立ち上がり、俺の方に向き直って笑った。
「俺の飯がうまいのは、俺がお前の為に作るからだ」
そう言うといってくる、と頬にチュっとして出掛けていった。
アーロンのご飯。
俺のオニギリ。
雲泥の差だけど、相手を思って作ってるのは同じってこと?
だからあんなにアーロンのご飯はおいしいのかな。
首を傾げながら余ったオニギリを口にする。
「…フツーのオニギリだよな…」
アーロンはああ言ってくれたけど、やっぱり料理勉強してリベンジっス!と心に誓った俺だった…。