らぶりーべいべ

























一体何が起きたんだ…?
自分の身に起きたことが理解できず、アーロンは数分前の事を思い起こしてみる。

手強い敵だった。
ティーダは意識不明に陥り、アーロンもまた深い傷を負った。

そうだ、それでリュックに回復を頼んだんだったな…。

そこからが問題だ。
突然目の前が暗くなったかと思うと、息苦しくなり意識が一瞬遠のいた。
そして気がついたら自分の体が小さくなっていたのだ。

「どういうことだ…」

発した自分の声の高さに驚く。
ティーダを回復しようとしていたユウナも、驚いて手が止まっていた。
「リュック!!」
「ごめんなさぁ〜いっ!!回復薬使おうと思ったのに間違えちゃった…」
「いいから早く戻せ」
暫しの沈黙。
「戻せって言われてもぉ〜…今はムリだよぉ…」
「何だと…っ!?」
「だってその薬調合ミスしたもんなんだもん。反対の作用が働く薬ないもん」

ないもん。じゃないだろ…。
頭がくらくらしてくる。
「ふざけるな」
「こぉんな子供に怒られても怖くないも〜ん♪」
「………」

リュックが明日まで待ってくれれば薬を作れるから、というので、今日はここでキャンプをはることになった。
しかし…。
「ユウナ、ちょっと待て」
「ハイ?」
ティーダを回復させる手を止める。
こんな姿をティーダに見られたらからかわれるのは目に見えている。
それは絶対に避けたいのだが、こんな所で単独行動をしたらこんな体で敵を相手に出来るはずもない。

「いいか…みんなよく聞け。これから俺は俺ではなくなる」
「はぁ??」
「ティーダには俺は明日には戻る予定だからと言え。俺はガキのふりしてるからな…わかったか」
首をかしげる一同。
「何の為に?」
「…威厳を守る為に、だ」
その小さな姿のアーロンにはそぐわない言葉に一同は笑いを抑えるのに必死になりながらも承諾した。

「…あれ…俺…」
やっと回復してもらえたティーダが辛そうに体を起こす。
「さっきの戦闘で意識不明になっちゃったんだよ」
ユウナが手を貸す。
「そっか…迷惑かけたっス」
ペコリとみんなに頭を下げてからキョロキョロと辺りを見渡す。
「あれ?アーロンは??」
「次の町で用事を済ませて戻ってくるから、それまでここで待っててくれって」
ルールーがそう言うとティーダはあからさまにイヤそうな顔をした。
「全く自分勝手で困るよなぁ〜」
「まぁまぁそう言わないでさぁ…」
少し責任を感じてリュックがフォローする。
はぁっとため息をついて視線を落としたティーダは、そこで初めて幼い子供がいることに気付いた。

「あれ??この子は??」
「あっ…えーっとね、この子は…そうっ、迷子になってたの!」
リュックの言葉にティーダは訝しげに首をかしげる。
「こんな危険な所で?」
「う…うん、で、危ないから親が探しに来るまで預かってようってことになってっ…」
ふぅ〜ん、と言いながらティーダはアーロンの前にしゃがんで目線を合わせた。

気付くわけがない…よな…。
アーロンは自分の鼓動が早まるのを落ち着かせようと自分に言い聞かせる。
ティーダに食い入るように見つめられ反応を待つ時間がとてつもなく長く感じられた。

「…激かわいいっス!!」
アーロンはティーダの言葉に拍子抜けして脱力した。

かわいい、かわいいと言って頬ずりしてきそうな勢いのティーダにアーロンは思わず後ずさりする。
そんな二人を見て必死に笑いをこらえる一同。

おもしろくない…。
何で俺がティーダにかわいいかわいいされなきゃいかんのだ…。

アーロンはリュックを睨むが、今のアーロンにすごみがあるわけもなく、リュックも舌をペロリと出して笑っている。
しかし、アーロンが戻った時のことを考えて急に恐ろしくなったリュックはある提案をした。
「ねぇティーダ、すぐそこに川があったから、そこでその子と遊んできたら?」
アーロン的には全く嬉しくない提案にもティーダは目を輝かせた。
「そうっスね、行ってくるっス♪」

二人が離れて行くのを見届けて、他の者はキャンプの準備を始めた。
「アーロンさん…ずっとあのままだったら怖くないのにな…」
ぼそっとワッカが呟く。
「リュック、いっそのこと薬作らなくてもいいんじゃねーか?」
「そんなこと言ってたの知られたら殺されちゃうよぉ〜?」
「そ…そうだな…今のはオフレコでっ!!」

「でも、アーロンさんにもあんな時期があったんだよねー、なんだか不思議…」
ユウナが感慨深そうに呟くと皆も頷く。
「アーロン、かわいかった」
キマリが言うと、皆一層力強く頷くのだった。

そんな会話がなされてることも当然知らない二人は川辺に座っていた。

「おチビさん、お名前は?」
考えもしなかった質問に、黙ってしまう。
「まぁいっか、おチビで」
全然良くない…。
屈辱的だ…。
思わずため息をつく。
「子供のくせにため息なんかついて〜。ため息つくと幸せ逃げちゃうんだぞ!」
…能天気なヤツはいいよな…。

「みんなに会えなくて淋しい?」
「別に…淋しくなんかない」
適当に合わせておこうと答えると、ティーダは笑ってアーロンの頭を撫でた。

「おチビは強い子だな、えらいぞ〜」
お兄さんぶるティーダに思わず苦笑いする。

「アーロン」
アーロンが身を固くする。
「…ておっさんがいるんだけどさー」
良かった…ばれたのかと思った…。
「そのおっさん、すげー偉そうで、しかもすごいカンジ悪くてさぁ」
……。
「その上意地悪で自分勝手なんだよー」
………。
そこまで言うか?
結構へこむぞ…目の前に本人がいると知らないにしても言い過ぎだ…。

アーロンは不貞腐れて手元にある草をいじりながら黙って聞いていた。

「でも、アーロン、ホントはいいヤツなんだ」
その言葉に驚いて顔を上げる。
「アーロンはね、すごく強いんだよ。…でも一人で先行くなんて…俺心配なんだ」

弱々しく笑って見せるティーダにひどく胸が痛んだ。
罪悪感。

「それにさ、俺が意識ない時にさっさと行くなんて、ひどいよな。俺、そんなに嫌われてんのかな…なんて」

そんなことはない、と口に出せなくて、代わりにティーダの手を握った。
今の自分の手よりもはるかに大きなティーダの手。
申し訳ない気持ちで一杯になりながらもティーダを見上げると、ティーダはまたニコッと笑った。
「でも俺はアーロンが好きなんだ。偉そうでも意地悪でもいいから早く元気に戻ってきてほしいって思う。だからさ、」
ティーダはアーロンを自分の膝に乗せ、言い聞かせるように続けた。
「だから、おチビのパパもママもきっとおチビに会いたがってる。おチビだってホントは早く会いたいんだろ?」

体が子供だと、感情のコントロールも効かなくなるんだろうか?
とめどなく流れ落ちる涙を抑えることができなかった。
しゃくりあげるアーロンをティーダが優しく抱く。

こんな風にティーダに甘えられることもこの先ないだろうし。
そう思ったら、今だけ甘えておこうという気になって、ティーダの胸にしがみ付いた。

「大丈夫だよ、すぐに会えるから」
それはティーダが自分に言いきかせているようにも聞こえて、アーロンの涙はしばらく止まらなかった。

「そろそろ戻ろうか」
ティーダが腰を上げたので、アーロンも立ち上がる。
いつもは自分が見下ろして、ガキだとばかり思っていたティーダが大人びて見える。
「さっき話したこと、アーロンが戻ってきても内緒だぞ?」
内緒も何も…と思いつつも、うん、と答える。
人の日記を勝手に読んでしまったようなバツの悪さもあるけれど、ティーダの気持ちを初めて聞いたアーロンは、リュックに少し感謝した。
こんなことでもなければ、自分はずっとティーダに疎まれていると思っていただろう。

「…きっとアーロンて人もお兄ちゃんに会いたいって思ってるよ」
「…そうかなぁ…そうだといいな」

皆の元へ戻ってからは、アーロンは殆ど口を開かなかった。
ティーダの前はいいにしても、皆の前でお子様に振る舞うことに抵抗があったからだ。
ティーダに対しても、もうアーロンから甘えることはなかったが…。

「俺、おチビと一緒に寝るっス!」
何言ってるんだコイツは…。
そんなことしたら他のヤツらが…。
案の定、みんなニヤニヤ笑って「ど〜ぞ〜♪」なんて言っている。

そんなこんなで、結局アーロンはティーダの腕の中にすっぽりはまって寝ることになった。

何も抱いて寝ることはないだろう…。#
そう思っている間に、既にスヤスヤと寝息が聞こえてくる。

まぁ…悪くないか…。

暖かいティーダの胸の中。
心地よいと感じ始めてる自分に驚きつつも目を閉じる。

うとうとしかけた頃にリュックに起こされた。
「薬、できたよ」
「…今行くから待ってろ」
リュックは頷くとテントの外へと消えた。

やっと戻れる。
それなのに、名残惜しく感じている自分に苦笑する。
ティーダを起こさないように腕から抜け出した。
「じゃあね、おにいちゃん」
そう呟いてティーダの額に軽くキスすると、ティーダが笑ったように見えた。


翌朝。
「おチビ〜!?」
ティーダが慌ててテントから飛び出ると、そこにはアーロンの姿があった。
「アーロン…いつ戻ったの?」
「夜中のうちにな…」
ティーダが泣きそうな顔になっている。

「悪かったな…」
「何がっスか」
「置いていって…心配かけて」
そう言うと、ティーダの目から涙がこぼれた。
「別に…誰があんたの心配なんか…」
目をゴシゴシこすりながら強がる。
「それならいいがな…」
笑いながらティーダをに抱き寄せると、一瞬びっくりしたようだが胸にしがみついて泣きだした。

ようやく落ち着いて我に返ったティーダは青ざめた。
「そうだ!おチビ…!!」
「ああ、夜のうちに親が探しにきてな…帰っていったぞ」
「そっか…良かったっス」

「でも…なんか淋しいっスねー。可愛かったのになぁ」
可愛いという言葉にアーロンは苦笑する。
「また会えるかなぁ…」
「…あの子もまたお前に会いたいって言ってたぞ」
「ホントっスか?」

この先ティーダに甘えるような日がくるとは思えない。
だけど。
これからは俺がお前を甘えさせてやるから。

「それから、お前に伝えてくれって」
「なんて?」
「…ありがとう、てな」

【END】