side A
グラスの氷が溶ける音がした。
ティーダが帰らない。
何度迎えに行こうとしたことか。
何度電話しようとしたことか。
立ち上がりそうになるその衝動を抑える為に何度グラスを空にしただろうか。
アイツももう子供じゃない、いちいち俺が干渉していちゃいけない。
自分にそう言い聞かせて。
それでも先にベッドに入ることができずにいる。
まるで捨てられた犬みたいだな…。
自分で思ったことに苦笑して目を閉じる。
頭に浮かぶのはティーダの顔。
無邪気に俺の名を読んで笑っている顔。
早くその顔が見たい。
俺の名前を呼んでほしい。
今朝も顔を合わせているというのに、今すぐにでも会いたい。
ティーダが帰ってこないわけがないのに。
明日になればまた会えるというのに。
「…ロン…ね、アーロン?」
聞き慣れた声が耳に入ってきて意識が戻る。
いつの間にか眠ってしまったのか…。
ぼやけた視界を戻す為に目をこすると、隣にティーダの顔が見えた。
「ティーダ…」
ずっと帰りを待っていたにも関わらず、夢じゃないかと確かめる為にティーダの体を抱き寄せる。
夢じゃ、ないみたいだな…。
「ティーダ…会いたかった」
素直な気持ちが口から出る。
今朝会ったのにと思ったんだろう。
ティーダは少し笑って俺を抱き返しながら。
「俺も会いたかった」
嘘でもいい。単純に嬉しかった。
お前の温もり。
お前の息遣い。
お前の声。
お前の全てが、俺がここに存在している意味をくれる。
抑えていたものが溢れだすように、何度も何度も「会いたかった」と囁く。
自分でも知らぬ間にティーダを抱く腕に熱が籠もる。
そんな俺をなだめるかのようにティーダが俺の頭を撫でる。
「俺はいつでもアーロンの側にいるよ?」
その笑顔があまりにも可愛くて。
その言葉があまりにも嬉しくて。
愛しい気持ちがあまりにも苦しくて。
たまらない気持ちで割れ物に触るようにキスをした。
愛しい人が目の前にいるのに苦しくて、どうしていいのかわからない。
そんな俺の気持ちを察したかのように、ティーダから唇を重ねてきた。
ティーダはここにいる。
それを確かめるように、長く、熱く、唇を求めた。
心の中が穏やかになっていくのがわかった。
「愛してる」
俺はこんなにも。
「俺も…」とお前は言う。
お前はいつも照れて、愛してるって口にしない。
言ってくれるのを待っているんだがな…。
「一緒に寝よ?」と手を引かれる。
どっちが年上なのかわからんな、などと思いつつも、その姿が愛らしくて目を細める。
お前は俺の支え。
お前はそれをわかっているんだろうか?
「今日は俺が腕枕する」なんて、明日の朝腕が痛いって大騒ぎするのが目に見えてる。
でも、お前なりに精一杯俺を甘えさせてくれようとしてるんだろうな。
どうってことない一日。
何ら変わりのない日常。
でも、お前がいることで俺にとってはかけがえのない一日になる。
お前がくれた幸せな一日。
明日も幸せをくれるんだよな?
おやすみ、ティーダ。
いい夢を…。
【END】